本研究所は、平成5年3月と平成9年10月に内部自己点検・評価を行い、平成11年3月には世界的に著名な食糧科学者(9ヶ国、10名)による外部(国際)評価を行った。ついで、平成11年3月に、国内の学者11名による外部(国内)評価を実施した。この外部(国内)評価では、平成7年(大部門制への改組)以後について、本研究所の学際的、社会的存在の意義、並びにその将来像に関しても評価並びに意見をいただいた。これまでの内部および外部評価に基づいて、その都度本研究所並びに食糧科学研究の発展のため、の将来像の展望とその方策の具体化に取り組む努力を行ってきた。平成11年3月から、「食糧科学研究の将来発展像について」の議論を本格的に始め、本研究所では必ずしも現在の組織の単なる延長線上での拡充・発展像を考えるのではなく、時代と社会の要請に応えうる食糧科学研究領域の発展を支えるにふさわしい新たな思い切った組織づくりを目指しつつ将来計画の策定を進めることとなった。
21世紀を見据えた食糧科学の新たな長期的課題として、「先進国の飽食」と「途上国の飢餓」の問題を解消し、資源生産性の向上を図るための研究が提起されている。また、人口増加及び環境悪化の中で持続可能な食糧生産のための抜本的技術開発、高齢化社会の到来に向けての健康及びQOL(生活の質、良質な生活)の視点からの高品質な食糧・食品の創製、食品汚染や遺伝子組み換え作物の食糧化に対する科学的な安全性の確保、さらに自然及び人間社会の環境への貢献に資するゼロミッションの「食」システムの構築、など新しい食糧科学の研究領域の開拓と推進が求められている。これら「食」の今後の諸課題に対しては、食糧科学研究所がこれまでのように「質」の研究、すなわち良質の食品を消費者に提供することを意識した研究だけでなく、さらにそのものの生産性をも高める研究、すなわち「量」の研究をも必要とする。しかし、本研究所には、「質」の研究成果に「量」の研究成果をも付加できるフィールド環境や生産効率に関する研究の蓄積はなく、21世紀の食糧問題を見据えた研究の拡大には対応できない。
このため、食糧科学研究所のアクティビィティを農学研究科の健康科学、生命、ゲノム科学、フィールド・環境科学の各分野と融合的に統合する必要があるとの考えにいたった。これにより、食糧科学研究所が担ってきた役割は中断あるいは消滅することなく継承され、さらに時代の流れに沿った新たな発展をたどることになるとともに、諸専門分野が連携した領域横断・統合的な「食」の研究を推進することができる。さらに、食糧問題への対処には、数多くの食糧科学分野の研究者による研究を進めていくことが条件であるが、21世紀に向けての現状の食糧科学分野の研究者は不足しており、十分な研究は展開できていない。このため、研究者層の拡充・充実を図らなければならないが、この研究者層の拡充・充実には、食糧問題に対して常に最先端研究を行っている研究者の下での人材養成を行うことが、より良い研究者を多く輩出することにつながり、ひいては研究のさらなる深化が期待できる。
研究所と大学院の統合により、食糧科学研究所が、半世紀にわたって蓄積してきた「質」の最先端の研究と、農学研究科での「量」としての最先端研究の融合が図れ、食糧の生産から摂取に至るまでの「食」のあるべき姿を追求し、モデルを提示すると共に具現化するような「食」の科学に関する研究と教育を通じて長期的に「食」の課題を担うに足る新組織体制を構築・整備することになる。これにより、食糧科学研究所がこれまで蓄積してきた「食」に関する研究資産を継承・拡充・社会的要請に応えるとともに新たな研究の発展と展開がもたらされ、未来への展望が拓かれる。
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